講義 ウクライナの歴史

LINEで送る
Pocket

講義 ウクライナの歴史
「第3講 リトアニア・ポーランド支配の時代 ―十四~十八世紀の近世ウクライナ地域」を有志の会発起人・呼びかけ人の小山哲が担当しています。

ぜひ、ご一読ください。

アダム・ミフニク「プリゴジンのクーデターは、プーチンのロシアの終わりを意味する」

LINEで送る
Pocket

『ガゼタ・ヴィボルチャ』 2023年6月24日付
https://wyborcza.pl/7,75398,29904100,michnik-pucz-prigozyna-oznacza-koniec-rosji-putina.html

この10年来、多くの人にとって明らかであったのは、ウラジーミル・プーチンにとってのウクライナとの戦争は、ソ連の独裁者レオニード・ブレジネフにとってのアフガニスタン戦争と同じものとなるだろうということだった。1991年のゲンナジー・ヤナーエフの失敗したクーデターがソ連の終焉を意味したように、エフゲニー・プリゴジンのクーデターはプーチン大統領のロシアの終焉を意味する。

いずれにせよ、この腐った帝国主義的レジームは、その無慈悲な独裁者と共に終わるだろう。 ポーランドの政治に要請されているのは、冷静さと節度と責任ある姿勢を保つことである。 ロシア国内のギャング同士の内戦を利用しようとするいかなる試みも、ポーランド国内の政界のギャングどもに利益をもたらすことはありえない。

ポーランドの選挙は、完全に民主主義的で、完全に透明でなければならない。ポーランドの国家理性がそのことを求めている。

プリゴジンの反乱に対する、ポーランドの日刊紙『ガゼタ・ヴィボルチャ』の編集主幹アダム・ミフニクのコメント。

「1991年のゲンナジー・ヤナーエフの失敗したクーデター」とは、この年の8月に副大統領ヤナーエフをはじめとするソ連共産党保守派の党官僚が、改革派のゴルバチョフ政権に反発して起こしたクーデターを指す。クリミア半島で休養中のゴルバチョフに大統領辞任を迫ったが拒否され、別荘に軟禁した。しかし、ロシア共和国大統領であったエリツィンが「クーデターは違憲」と声明し、モスクワ市民と軍の大勢がこれを支持したため、クーデターは失敗に終わり、ソ連共産党の権威の失墜をもたらした。

ポーランドでは、今秋に議会選挙が予定されている。「ポーランド国内の政界のギャングども」と「ポーランドの選挙」へのミフニクの言及は、国政選挙を控えたポーランドの最近の政治情勢をふまえたものである。ポーランドでは、5月末に、「ロシアの影響」を受けた政治家らの公職追放を可能にする新法が制定された。この法律の真の狙いは、右派与党「法と正義」(PiS)が、年内に予定される総選挙で野党候補を排除することにあるといわれる。最大野党「市民プラットフォーム」は、首相や欧州理事会常任議長(EU大統領)を歴任した同党のトゥスク党首の立候補を阻止するための工作だと批判している。

【SatK】

踊るウクライナ―キーウのお年寄りたちの週末

LINEで送る
Pocket


年齢やジェンダーによって分節化された戦時の日常について、コモンズ(共有地)として地下鉄の駅の可能性について、などなど、いろいろ考えてしまう。

【SatK】

歴史学者に聞く「ウクライナ侵攻の深層と今後」

LINEで送る
Pocket

ロシアのウクライナ侵攻から1年、口ごもりつつ考える

LINEで送る
Pocket

アダム・ミフニク「ウクライナでの戦争は、ロシア国民とウクライナ国民との戦争ではない。この戦争は、民主主義的世界で生きようと望むわれわれ全員にとっての新たな挑戦である。」

LINEで送る
Pocket

『ガゼタ・ヴィボルチャ』2023年2月23日
https://wyborcza.pl/7,82983,29482389,adam-michnik-wojna-w-ukrainie-to-nie-jest-wojna-narodu.html

今日、われわれが1周年を迎えているこの戦争は、疑いもなく、われわれの時代の最も重要な戦争である。なぜならば、これは、帝国主義的・排外主義的・全体主義的なプロジェクトと、民主主義的・ヨーロッパ的・複数主義的なプロジェクトとがたたかう戦争だからだ。

これは、ロシア国民とウクライナ国民との戦争ではない。これは、プーチンの帝国的・殺人的・犯罪的権威主義とウクライナの民主主義との戦争である。ウクライナの民主主義の根本的な目標はヨーロッパ連合の民主主義的な構造のなかに加わることであり、その意味で、これは、われわれの世界とわれわれに敵対する世界との戦争である。

だが、忘れてはならないのは、プーチンや小型のプーチンたち、あのプーチンの小人のような連中は、あらゆる国に、ある程度までは、すべての社会集団のなかに存在するということだ。この戦争の本質的な姿、その本質的な意味が疑問視されるところ、そのような場所のいたるところに、われわれは小プーチン的なものを見いだす。

われわれポーランド人は、このやり口をよく知っている。バルト諸国、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーに対する、大ロシア主義的な帝国主義、ソヴィエト的帝国主義、プーチンの偽りの帝国主義のこのやり方を。

これらのすべての帝国的な侵略を、われわれは記憶している。それは、いつも最初に大きな嘘をつくことから始まった。これは攻撃的な侵略ではなく介入にすぎない、それは社会的・民族的・人間的な権利を護るために行なうのだ、と。1939年にヒトラーの軍隊がポーランドに侵攻したときもそうだった。それは、ドイツ系少数者の権利を護るためと称されたのだ。スターリンの軍隊が侵攻したときもそうだった。それは、ベラルーシやウクライナの住民を護るためと称されたのだ。

事実は、この戦争が、民主主義的世界で生きようと望むわれわれ全員にとっての新たな挑戦である、ということだ。
これは、どちらに立つかの挑戦であり、そこには中立の場所はすでにない。両方に均等に足を置くような場所はないし、この挑戦を過少に扱うことはもちろん論外である。これは、第二次世界大戦に匹敵する挑戦である。そして、この挑戦において、ポーランドが正しい側に立っていること、自らのアイデンティティを守ろうとするウクライナの側に立っていることを、私は幸いであると思う。

ポーランドとウクライナの関係の歴史には、いろいろな局面があった。この関係はしばしば悪いものであったし、悲劇的なものになったこともしばしばあった。そして、今日、政治的な立場を問わず、ポーランドがウクライナに友愛の手を差しのべていることは、ポーランドの歴史の暗い側面に対する勝利であり、大きな成功である。この関係が続くことを私は願っている。

これは、他の国民に敵対するための友愛ではない。これは、独裁と、全体主義と、虚偽と、残虐行為と、犯罪に反対するための友愛である。集団虐殺の犯罪に反対するための、ウクライナ国民を殺害する犯罪に反対するための、友愛である。

殺されたすべての人びとは、ポーランド人の側からの、賛嘆と感謝の言葉に値する。ウクライナの地で、ポーランドの自由の運命が決められている。われわれの心は、ウクライナの人びとの側にある。ウクライナ人が彼らの自由のためにたたかう戦争は、われわれの自由のための戦争でもあるのだ。

ポーランドの日刊紙『ガゼタ・ヴィボルチャ』の編集主幹アダム・ミフニクが、ウクライナでの戦争1周年にあたる2月23日に発表したメッセージです。

1年前、同じ日刊紙『ガゼタ・ヴィボルチャ』に発表された、ポーランドの知識人・文化人による「ウクライナとの連帯とロシアの侵攻阻止を求めるアピール」の翻訳と解説を「有志の会」のホームページに掲載しました。
翻訳:https://www.kyotounivfreedom.com/solidarnosc_z_ukraina/apel/
解説:https://www.kyotounivfreedom.com/solidarnosc_z_ukraina/komentarz/
昨年2月19日付で公表されたこのアピールの中心となったのが、アダム・ミフニクでした。
ロシア軍の侵攻が始まった2月24日に発表された彼の論説「今日、はっきりと、声高く、言わなければならない。われわれ全員がウクライナ人だ」も、翻訳を「生きのびるために ウクライナ・タイムライン」に掲載しました。
https://www.kyotounivfreedom.com/ukraine_timeline/editorial/20220224/

1年をへて、「この戦争はヨーロッパの自由と民主主義を守るための戦いである」という、彼の見かたが変わっていないことが確認できます。ポーランドとウクライナの関係史に不幸な時代があったことを認めたうえで、ポーランド人がウクライナに友愛の手を差しのべる現状を肯定的に評価する点も変わりません。

「民主主義vs. 独裁」「自由vs. 全体主義」というとらえ方に、欧米中心主義的なイデオロギー性を感じる読者もいるかもしれません。しかし、ポーランドの近現代史をふまえると、これもまたリアルな歴史と現状の認識の表現なのです。むしろ、ロシアとの関係で多くの困難に直面してきた国を代表する日刊紙が「この戦争はロシア国民とウクライナ国民との戦争ではない」というメッセージをはっきりと掲げていることの意味を、私たちはしっかりと受けとめるべきでしょう。

【SatK】

世界 2023年3月号【特集1】世界史の試練 ウクライナ戦争

LINEで送る
Pocket

『世界』3月号(2月8日発売)で特集「世界史の試練 ウクライナ戦争」が組まれ、有志の会より岡真理と小山哲の論考が掲載されています。

  • 岡真理「「人権の彼岸」から世界を観る―二重基準に抗して」
  • 小山哲「ポーランドからみた「ウクライナ侵攻」―ふたつの「民族」、ふたつの「難民」」

ぜひ、ご一読ください。

ポーランドの国境警備隊、9,000人近くのウクライナ人の入国を拒否

LINEで送る
Pocket

執筆:アニタ・カルヴォフスカ Anita Karwowska
『ガゼタ・ヴィボルチャ』 2022年11月28日
https://wyborcza.pl/7,75398,29193076,straz-graniczna-uniemozliwila-wjazd-do-polski-niemal-9-tys.html#S.TD-K.C-B.1-L.1.duzy

初めて国境を越えようとしているウクライナ人も、一時的に祖国に戻って、もう一度ポーランドに行こうとしている難民たちも、入国に問題を抱えている。

「数か月来、ウクライナの市民や、ウクライナ領内に居住する外国人に対して、ポーランドへの入国を認めなかったり、条件をむずかしくしたりする事例の報告を受けている」と、 「法的介入協会」(SIP)は警告する。ポーランドの領土に初めて入国する人びとと、ポーランドや他の EU 諸国でいったん保護を受けてからウクライナに一時帰国した人びとの双方から、この問題についての訴えが届いているという。

この問題について本紙で最初にとりあげたのは、7月のことであった。外国人を支援している SIPには、ポーランドへの再入国を拒否されたウクライナ市民についての情報がますます多く届いている。彼らには、戦争難民への支援にかんする特別法によって帰国する権利が保障されているにもかかわらず、である。

3 月に採択され (7 月初旬に改正された) ウクライナ難民のための特別支援法では、2022 年 2 月 24 日以降にポーランドに入国し、一時的な保護の対象となり、その後ポーランドを出国した人は、 30 日以内であれば、法律で保証されている権利(たとえば、子供 1 人あたり 500ズウォティの追加支援)を失うことなく自由にポーランドに戻ることができることになっている。

「内務省もそのような見解をとっているのですが、国境警備隊が規則を違ったように解釈しているようです。 しかし、そうした解釈は、法律に合致していません。従来、国境ではかなりの程度まで裁量の余地が認められてきました。警備隊員は、国境を越える人びとに大きな権力を行使する状態に慣れていました。ところが、戦争難民のために導入された規則は、彼らの立場を弱めたのです」とSIP会長であるヴィトルト・クラウス教授は説明する。

7月の段階では、SIPはまだ詳細なデータを持っていなかった。しかし現在では、情報公開制度を利用して、国境警備隊からデータを入手している。それによると、3月から9月にかけて、ウクライナとの国境で、国境警備隊の職員は、8,840件の入国拒否にかかわる決定を下したことがわかる。その対象には、ウクライナ市民と他国の市民の両方が含まれる。9 月だけでも、こうしたケースは約 2,000 件にのぼっている。

ほとんどの場合について、国境警備隊は、ビザなしで移動する場合にEU領内での滞在が認められる期間を超過していること、あるいは、有効なビザまたは居住許可の書類を持っていないことを理由として挙げている。国家安全保障に対する脅威とみなされたのは、数名である。国境警備隊の職員は、シェンゲン協定の規定にもとづいて、ウクライナ人のポーランドへの再入国を拒否している。この規定によれば、ポーランドでの90日間の滞在期間を使い切った者は、90日経たなければ再入国ができないことになっている。

SIPの専門家によれば、現在の状況においては、国境警備隊は、ウクライナから来る者に対しては、必要な書類を所持していなくても、人道上の理由から入国を許可する必要がある。協会は、この問題について、国境警備隊に繰り返し申し入れを行なってきた。

さらに50 万人の難民が、ポーランドに避難所を求める可能性がある

今後数週間のうちに、ウクライナからポーランドに入国するための明確な規則が、とりわけ必要となる可能性がある。現在、ポーランドには 100 万人を超える戦争難民がいる。この冬には、ヨーロッパ東部の厳しい冬、激しさを増すロシアのテロ、水・エネルギー・暖房が得られない状況から逃れるウクライナ人がさらに50万人、到着すると推定されている。

人道支援団体は、何か月にもわたる戦争の経験によって心に傷を負い、より多くの支援を必要としている人びとが、ポーランドに避難所を求めることになるであろうと警鐘を鳴らしている。滞在場所を用意すること自体が難しくなる可能性がある。いまなお80,000人の難民が支援施設に滞在しており、その多くが過密な状態で居住している。

【SatK】

ポーランドのドゥダ大統領、プシェヴォドゥフでの爆発について「ポーランドへの攻撃ではなかった。おそらくウクライナのミサイルである」

LINEで送る
Pocket

執筆:アガタ・コンジンスカAgata Kondzińska
『ガゼタ・ヴィボルチャ』 2022年11月16日 現地時間12:48発
https://wyborcza.pl/7,75398,29146097,prezydent-duda-o-wybuchu-w-przewodowie-to-nie-byl-atak-na-polske.html#S.MT-K.C-B.1-L.1.duzy

「ポーランドを狙ったミサイルではなかった」と、ポーランドのアンジェイ・ドゥダ大統領とマテウシュ・モラヴィェツキ首相は揃って認めた。プシェヴォドゥフに着弾したのはおそらくウクライナの地対空ミサイルの残骸であり、「北大西洋条約第4条の適用は必要ないだろう」とも述べた。

火曜の15時40分、ルブリン県のプシェヴォドゥフ村の穀物集蔵場に、少なくともミサイル1機が着弾した。爆発で2名が死亡した。この日、ロシアはウクライナに最大規模のミサイル攻撃を行なっていた。

ドゥダ大統領 「これはおそらく不幸な事故だ」

水曜朝、ドゥダ大統領は、モラヴィェツキ首相と会談した。直後に行なわれた共同の記者会見で、2人の政治家は「ポーランドへの意図的な攻撃であったことを示すものは何もない」と認めた。「これはポーランドへの攻撃ではなかった。1970年代のロシア製のミサイルS-300型であった可能性が高い」とドゥダ大統領は語った。

「ロシア側がミサイルを撃ったことを示す証拠はない」と大統領は強調した。他方で大統領は、「多くの点で、落下した砲弾が対ミサイル防衛に用いられたこと、この砲弾がウクライナ軍によって用いられたことを示している」と語った。「ロシアからの砲撃、ミサイルが飛んでおり、さまざまな方向から機動性のミサイルも飛んでいた。おそらくその一部はポーランドの領土内を飛行し、東に向きを変えたので、ウクライナの対空防衛部隊はさまざまな方向に地対空ミサイルを発射した。それらの1つが残念なことにポーランド領内に落下した可能性がきわめて高い」と大統領は説明した。

さらに次のようにつけ加えた。「この紛争全体がそうであるように、今回も、われわれは、ロシア側によって引き起こされたきわめて重大な衝突に巻き込まれた。したがって、昨日の衝突全体の責任はロシア側にあることはまちがいない。」

大統領は、現場検証から、ミサイルに搭載された爆発物が爆発したのではなく、ミサイルの落下の力とミサイル内に残っていた燃料の爆発が重なった結果と考えられると述べた。

以上は暫定的な結論であることを大統領は認めた。ポーランドの捜査班はアメリカの担当者と協力して調査を行なっている。「これがポーランドへの攻撃であったと言いうるようないかなる証拠も痕跡も存在しない。これはおそらく不幸な事故であった」とドゥダは説明した。

モラヴィェツキ首相 「平静を保ちましょう」

モラヴィェツキ首相はまず、軍と警察は最高度の警戒状態にあることを認めた。爆発が起こったプシェヴォドゥフでは、人員が増員されている。

「われわれは不幸な出来事に巻き込まれた。ポーランド市民が亡くなったのだから」とモラヴィェツキは述べた。そして、ポーランドの捜査班はアメリカの担当者と協力していることをあきらかにした。「[EUとNATO加盟諸国の]首相たちとの話し合いのなかでとくに共鳴したことを強調しておきたい。昨日はウクライナ全土に大規模な攻撃が行なわれた日だった。ミサイルのかなりの部分がウクライナの都市に飛来し、その一部は撃ち落された。半数とも四分の三とも言われるが、砲弾の一部は撃ち落すことができず、いろいろな場所に命中した。この攻撃に対抗するためにウクライナ軍は対空ミサイルを発射した。そのうちの1つが不幸なかたちでポーランド領内に落下したということを多くの証拠が示している。」

首相は、死亡した2名の家族に哀悼の意を表明した。「ポーランドは同盟のなかにおり、同盟は機能した」と首相は述べた。「さらに段階を上げて、北大西洋条約第4条を適用することは必要とされないだろう」とモラヴィェツキはつけ加えた。

北大西洋条約の第4条には、次のように記されている。「締約国は、領土保全、政治的独立又は安全が脅かされていると認めたときは、いつでも協議する。」

首相は、国境近くの住民たちに平静を保つよう呼びかけた。兵員が増強され、上空の防備も強化されるだろうと説明した。「この事態に平静に対処しよう。これがこの状況に対するわれわれの応答である」と首相は強調した。さらにロシアのプロパガンダへの注意を呼びかけた。「それがクレムリンの目標の1つだからだ。」

バイデン米大統領 「ロシアのミサイルではないようだ」

火曜の夕刻、AP通信と多くのヨーロッパの政治家たちが、プシェヴォドゥフに1ないし2発のロシアのミサイルが落下したと伝えた。上空でウクライナの地対空ミサイルによって損傷していた可能性があるとも伝えられた。

しかし、水曜朝、ジョー・バイデン米大統領は、次のように述べた。「詳しい調査が行なわれるまえに予断したくはないが、[ミサイルの]軌道からみて、ロシアから発射されたものではなさそうだ。」

AP通信も、さきの自社の報道を修正し、アメリカの情報機関の情報として、次のように伝えた。「初期段階の調査は、次のことを示している。ウクライナとの国境のポーランド側にあるプシェヴォドゥフに落ちたミサイルは、ロシアのミサイルに向けてウクライナ軍が発射した地対空ミサイルである。」

16日朝の時点では、ロシアによるミサイル攻撃がNATO加盟国に向けられた可能性を排除できず、ニュースを見ながら背筋が凍る思いだったが、ウクライナ側の地対空ミサイルによる誤爆であることがほぼ確実となった。大統領と首相が両並びで記者会見を行なうのはあまりないことで、ポーランド政府にとって事態が容易ならざるものであったことを示している。

現地のTVは見ていないのでわからないが、オンライン版の新聞を読むかぎりでは、ポーランドのメディアは市民に「平静を保とう」と呼びかけることに主眼をおき、予断や憶測にもとづくコメントは掲載せず、全体として抑制の効いた姿勢をとっていたように思う。

【SatK】

プシェヴォドゥフの爆発の後に、なぜ私たちは平静を保たねばならないのか

LINEで送る
Pocket

執筆:ミハウ・シュウジンスキMichał Szułdrzyński
『ジェチポスポリタ』2022年11月15日付 現地時間23:18発
https://www.rp.pl/komentarze/art37422581-michal-szuldrzynski-dlaczego-musimy-zachowac-spokoj-po-wybuchach-w-przewodowie

ルブリン県における爆発と2名の死亡は、大きなテストである。ポーランドの政権にとって、政治家たちにとって、情報機関にとって、メディアにとって、そして世論にとって。ロシア側は、すべてを詳しく観察し、そこから結論を引き出すだろう。

プシェヴォドゥフでの爆発の第一報が入った瞬間から、多くの専門家とコメンテーターが、平静と忍耐を保つように、と繰り返し呼びかけている。なぜそのような態度がこれほど重要なのか、説明しておくべきであろう。この点からみれば、この砲弾がポーランドを狙ったものなのか、的を外れたミサイルがたまたまポーランド領内に落ちたのか、はたまた、ウクライナ軍によって迎撃されたロシアのミサイルの破片が落ちたのか、といったことによって、さほど大きな違いは生じない。私たちが確実に知っていることは何もない。私たちが知っていることは、ロシアがウクライナに大規模な攻撃を行なった日に、ポーランドで爆発が生じた、ということだけだ。

他方で、確実なのは、ロシア側が私たちの反応を注意深く追っていることだ。彼らは、軍がどのように動くか、国家がどのように機能するか、世論がどのように反応するかを観察している。誰が冷静さを失うか、誰が挑発に成功するか、そして誰が平静さを保つか、を。そして、疑いなく、彼らはそこから結論を引き出すだろう。もしこうした出来事が私たちの国内の状況を不安定にするために役にたつと認めたならば、クレムリンは、将来の行動マニュアルにそのことを書き込むだろう。もしポーランドとポーランド人が冷静さを保つことができれば、彼らは、こうした出来事は自分たちにいかなる利益ももたらさないことを知るだろう。

西側全体がどのように反応するかを、ロシア側が観察していることも、まちがいない。同盟諸国はどのように反応するか、NATOは、そしてとりわけアメリカはどのように反応するか。最終的には、ポーランド、西側、NATO、国連を含めて、すべての関係者が、この状況とそれに対する反応から結論を引き出すであろう。しかし、そのためにはしばらく時間がかかる。さしあたっては、専門家たちの助言を心にとめて、平静さを保つことが重要だ。たとえ、プシェヴォドゥフで爆発が起こってからこれだけの時間がたってなお、じっさいになにが起こったのかについて、これほどわずかなことしか知らないことが私たちを苛立たせるとしても。

ミハウ・シュウジンスキは、新聞記者・ジャーナリスト。2016年から『ジェチポスポリタ』紙の副編集長。1980年生まれ。ヤギェウォ大学哲学科卒。

【SatK】

ロシアはさらなる戦争を望んでいる。よりハードで、厳しく、全面的な戦争を――前線での敗北への反応

LINEで送る
Pocket

「ガゼタ・ヴィボルチャ」 2022年9月13日 執筆者:ヴァツワフ・ラジミノヴィチ*
https://wyborcza.pl/7,75399,28904496,reakcja-na-porazki-na-froncie-rosja-chce-wiecej-wojny-twardej.html

ウクライナでの戦争は転換点を迎えた。しかし、これは、私たちが期待しているような転換点であるとはかぎらない。モスクワでは、ウクライナ軍の成功に対しては、全面的に容赦なくウクライナ人を攻撃することで報復するべきだ、と叫ぶ声が響いている。

ここ数日、ウクライナの反転攻勢の成功のニュースと並んで、「地方議員の反乱」――モスクワとペテルブルクで、地方議員たちがプーチンの退陣を求めるアピールを行なったこと――について、世界的にかなり報道された(訳注1)。

ロシア最大の2つの都市での24名の地方議員の行動は、じっさい高潔なものであり、たいへん勇気のいることである。しかし、その意義はシンボリックなものだ。アピールの署名者は、国会議員ではなく、モスクワの市議会やペテルブルクの立法議会の議員でもない(訳注2)。彼らと同じような地位にある者はロシア連邦には77,500人おり、彼らのなかには、開かれた精神や、プーチンの体制に反対する意見をもっている人たちもいることだろう。

地方議員たちの声は、シンボリックなものだが、小さくて、弱い。プーチンは、まったく慌てることなく、軍隊への「信頼を損なった」罪で、彼らを何年でも獄中にとどめおくことができる。

他方で、彼が対応を迫られるのは、これとは別の叫び声だ。こちらの声は、数が多く、より大きく響き、社会の支持があり、有力な保護者がいるために、抑えがきかない。

アレクサンデル・ドゥーギンも、そういった声の1つだ。彼は、2014年に、ウクライナ人は「殺し、殺し、殺す」必要がある、と叫んでいた。彼の同類たちは、すでに久しく、プーチンと彼の将軍たちを、決断に欠ける、敵に「生ぬるい」と批判してきた。

先週の土曜日から、クレムリンのプロパガンダは、ロシアの人びとに、むき出しでこう訴えている。「敵は前進している。「少なくとも世界第2の軍隊」が、前線でひっぱたかれたのだ」。(ちなみに、自尊心の強いモスクワが「少なくとも世界第2」と公然と言っているのだから、ポーランドで「しょせん2番目だろ」とバカして言うのは、私には理解できない。)

月曜日の夜、クレムリン配下のテレビ局、ロシア第1放送の番組「60分」で、前線での作戦遂行の専門家として、ミハイル・ホダリョノク大佐は、こう述べた。「ドンバスでの退却がなお続いている。ウクライナの攻勢を止めるためには、ロシア軍は自陣の後方の深いところに防衛ラインを築いて、そこに全勢力を新たに結集する必要がある。これが、効果的に戦闘を行なうために不可欠なことだ。」

「絹の手袋」をはずす時が来た

プロパガンダの語り口がとつぜん変わった。これまでは、TV放送やクレムリンの専門家たちは、ロシアはウクライナで「軍事的標的」だけを攻撃している、と語ってきた。そして、もし学校や病院や住宅にミサイルが命中した場合には、それはそこに「ネオナチ」が布陣していたからだ、と説明してきた。

いまや、彼らは憤激してこう問いかける。なぜ、敵国では、相変わらず鉄道が運行し、電気や水道がとおり、橋がかかったままで、キーウの政府中枢の所在地もそのまま残っているのか、と。いまこそ指揮官たちは「絹の手袋」をはずして、「人道的な戦争遂行のやり方」など忘れて行動するべきではないのか、と彼らは呼びかける。

TV番組「60分」の司会者であるオルガ・スカビェーヴァは、月曜日の放送のゲストたちが、3時間にわたって、敵の「不可欠のインフラ」と「マン・パワー」〔原文は直訳すると「生きた力」〕を叩き潰すために全面的な容赦のない戦争に乗り出すべきだと要求したことを受けて、こう叫んで番組を締めくくった。「ロシアはハードで厳しい戦争を求めている!」

プーチンは、ウクライナからの撤退は自分の終わりであることを知っている

「少なくとも世界第2の」軍隊が面目を失ったことに震撼させられたクレムリンは、イゴール・ガーキン(別名ストレルコフ)のような極端なタカ派の主張を受け入れている。ガーキンは、軍と競合しているロシア連邦保安庁の保護のもとに、久しく以前から平然と、不手際な指揮官たちを嘲笑し、ショイグ国防相を「ボール紙製の元帥」呼ばわりし、総動員令を布告せよ、国の経済を戦時体制に切り替えよ、と要求している。

プーチンは、ウクライナの前線での敗北が彼にどれほどこたえたにしても、妥協することはないであろう。なぜならば、妥協は彼の終わりを意味するからだ。どこかにいるリベラルや不満を抱いているオリガルヒの圧力などではなくて、まさしくタカ派の圧力のもとに、プーチンは、ショイグ国防相やゲラシモフ参謀総長のような老人(ともに67歳)を、もっと若い将軍――たとえば、手際よくクリミアの併合をやってのけた軍人たち――にすげ変えるだろう。そして、冬が来るのを待ちうけるのだ。

冬が来れば、モスクワの計算では、爆撃で破壊され、組織が解体し、凍えたウクライナは、それだけでもずいぶん弱くなるだろう。爆弾と爆撃機をたくさんもっているロシアは、キーウやスームィをいつでも1945年2月のドレスデン(訳注3)に変えることができる。すべてを賭けて戦っているプーチンは、このような残虐行為も辞さないであろう。

クレムリンは、ロシアからのガス供給を断たれた西側の社会が冬の寒さに反乱を起こして、自国の政府にキーウの政府への支援を止めるように圧力をかけることも計算に入れている。

この戦争は――ポーランドで支配的な楽観論に反して――終わることはない。それはさらに激しさを増すだろう。

*執筆者であるヴァツワフ・ラジミノヴィチ(Wacław Radziwinowicz)は、ポーランドのジャーナリスト。1997年から「ガゼタ・ヴィボルチャ」の特派員としてロシアに派遣されていたが、 2015年12月にロシア政府によって国外退去を命じられた。

(訳注1)ロシアの地方議員の声明については、日本でも報道されている。
「「プーチン氏は反逆罪」 声上げるロシア地方議員 政権は締め付け強化」(朝日新聞デジタル 2022年9月12日 6時58分)
「プーチン氏の地元サンクトペテルブルクで7日、7人の地区議員が、プーチン氏の行動が「国に害を及ぼし、反逆罪を示している」として、ロシア下院に弾劾(だんがい)するよう要請した。その後、うち5人が警察の取り調べを受け、「ロシア軍の信用失墜」の罪で起訴された。
 また、モスクワの区議グループも8日、プーチン氏や部下を「ロシアを冷戦時代に逆戻りさせ、再びロシアは恐れられ、嫌われ始めた。我々はまたも核兵器で世界を脅かしている」と批判。「あなたの考えや統治モデルは絶望的に時代遅れで、ロシアの発展を妨げている」として、退任を要求した。」
https://digital.asahi.com/articles/ASQ9D25S0Q9DUHBI003.html

(訳注2)アピールに署名したのは地区レベルの議員(日本でいえば区議会議員)であって、国政やモスクワやペテルブルクの市政を左右するような力はもっていない、ということを言いたいのであろう。

(訳注3)第二次世界大戦の終盤、1945年2月13日から15日にかけて、連合国軍(英・米の重爆撃機)が、ドイツ東部の都市ドレスデンを爆撃した。無差別に行なわれた爆撃によって、ドレスデンの市街地の85%が破壊されたとされる。

9月に入ってから、ウクライナ東部でウクライナ軍の反転攻勢が続いている。14日には、ゼレンスキー大統領が、解放された都市イジュームを訪問した。
https://wyborcza.pl/7,75399,28910348,zelenski-w-izium-mozna-zajac-ukraine-ale-nie-da-sie-okupowac.html
ウクライナ軍の攻勢を受けて、ポーランドのメディアでも、戦争の行方について楽観的な論調が目につくようになった。これに対して、この記事の執筆者は、ロシア軍の退却に対する反作用として、ロシアの政府系メディアで強硬派の発言力が強まっており、今後、戦争がさらに激しさを増し、長期化する可能性があることに注意を促している。

ロシア国防省は、イジューム周辺からの撤退を「部隊の再編成」として発表した。日本のメディアでは、「旧日本軍が「撤退」や「敗走」を「転進」と呼んだことが思い出される」というコメントもみられる。
https://digital.asahi.com/articles/ASQ9C6CYWQ9CUHBI00H.html
「部隊の再編成」という表現にはたしかに現実を糊塗する機能がありそうだが、訳者には、日本とロシアでは戦争の記憶の構造が異なっているかもしれないことが気になっている。
太平洋戦争で旧日本軍が「転進」し続けて敗戦に至ったのとは異なり、ロシアの歴史には、広大な自国の領土の奥深くまで退却を続けて敵軍を呼び込んだうえで撃破し、最終的に勝利するという経過をたどった戦争がいくつもある。ナポレオン戦争も、第二次世界大戦(ロシア政府のいう「大祖国戦争」)も、退却を重ねたうえで、消耗した敵を倒して勝利をおさめた戦いだった。
この記事のなかで、TV番組に出演したロシアの軍事専門家が「ロシア軍は自陣の後方の深いところに防衛ラインを築き、そこに全勢力を新たに結集する必要がある」と述べていることは、このようなロシアの戦争の歴史をふまえると、意味深長である。いま起こっていることはまぎれもなくロシア軍の軍事的撤退だが、ロシアの世論は、それをもって「われわれは敗北しつつある」とは受けとめない可能性がある。

訳者としては、プーチンの戦争に異議を唱えたモスクワとペテルブルクの地方議員たちの勇気ある行動に敬意を表しつつ、ポーランドのメディアをとおして、ロシア社会の変化を注意深く見つめていくしかない。

【SatK】

民謡が若い人たちのあいだで生きている

LINEで送る
Pocket

小山哲×藤原辰史「中高生と考える 戦争・歴史・ウクライナのこと」

LINEで送る
Pocket

2022年8月1日(月)に開催されました『中学生から知りたいウクライナのこと』発刊記念イベント『小山哲さん×藤原辰史さん「中高生と考える 戦争・歴史・ウクライナのこと」』の文字お越しがミシマ社のウェブサイト「みんなのミシマガジン」に計3回に渡って掲載されています。ぜひ、ご一読ください。

ダイジェスト動画も公開されています。ぜひ、ご覧ください。