ロシアの社会学者「ロシア人の多くがプーチンを支持している? いや、事態はもっと深刻だ」

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「ガゼタ・ヴィボルチャ」 2022年5月14日
インタビューアー・執筆者:ヴィクトリア・ビェリャシン(Wiktoria Bieliaszyn)
https://wyborcza.pl/7,75399,28447387,rosyjski-socjolog-rosjanie-masowo-popieraja-putina-jest-jeszcze.html#S.tylko_na_wyborcza.pl-K.C-B.2-L.1.maly

「最近、ロシアの政権に近い人たちがポーランドについて語っていることを、私はきわめて深刻に受けとめています。プーチンのウクライナ侵攻がある程度に成功すれば、ポーランドが次の標的になるでしょう」と社会学者グリゴリー・ユージン*は指摘する。

*グリゴリー・ユージン(Grigory Yudin)はロシアの社会学者。モスクワ経済学・社会科学高等学院の教授。

* * *

ビェリャシン: 「ロシア人・イコール・プーチン」――ポーランド人からしばしばこんな意見を聞くのですが…

ユージン: それこそまさにプーチンが耳にしたいと望んでいることです。彼が必要としている状態です。しかし、真実ではありません。

ビェリャシン: 「ロシア人は戦争を支持している」――これがきわめてしばしば耳にするもう1つのフレーズです。どれくらい真実なのでしょう?

ユージン: それにお答えするには、まず、ロシアの社会と権力システムがどのように構築されているかを説明しなければなりません。
最近まで、この体制は、次のように記述することができました――国家の頂点にすべてを決定する指導者が立っていて、国民の役割はその決定を批判なしに支持すると表明することである。同時に市民は、ロシア社会が土台から非政治化されているために、皇帝のようにみなされる指導者がどのような決定を下すかには、それほど関心を払わない。ロシア人の圧倒的多数は、政治について考えるのは意味がないと思っている。なぜならば、政治はうす汚れた危険なしろもので、それに対して自分たちにはいかなる影響力もないからだ、と。

ビェリャシン: 大統領は完全に自分で自由に決められるのですか?

ユージン: 仮にウラジーミル・プーチンが2月24日にルガンスク・ドネツク両州の領域が何らかの理由でウクライナに復帰するべきだと決定したとしても、世論調査に示される彼の行動への支持率は今と同じでしょう。ですから、これを何か意識的な支持だとみなすことは難しいのです。これは単なる喝采のようなもの、ロシアで従うべきとされてきた不文律への適応なのです。そして、戦時にはこの規範はいっそう強いものになります。

ロシア人は政治とかかわり合いを持ちたくないのです。彼らが抱いているのは、宿命論と、ある種の無関心です。それ自体たいへん困ったことですが、いわば病気のようなものです。もし今、みなさんが、すべてのロシア人は血に飢えた怪物のようなものだと考えているとすれば、それは大きな誤りです。そのようなロシア人はきわめて少数です。大多数は完全に受け身で、何らかの積極性を発揮するとしてもプライヴェートな問題に限られると考える人たちです。

ビェリャシン: では、世論調査はロシア社会の意見を探る情報源にはならないと?

ユージン: 「あなたは特別軍事作戦を支持しますか?」というアンケートの質問に否定的に答えれば、深刻な結果に直面する危険がありますからね。人びとにはそのことがわかっているのです。それでもなお危険を冒す用意のある人たちはたくさんいますが、みな、誠実に答えることは権力に歯向かうことだと自覚しているのです。なので、相当数の市民たち、より勇気のある人たちは、質問に答えることを拒否しています。世論調査の回答率はたった15%ほどに過ぎないということを知っておく必要があります!

しかし、国外では、これらの世論調査が参照されます。そこにいかなる意味もなく、そこで測られているのはロシア人の恐怖のレベルであって、政権への支持ではないのですが。
ロシア人は常にこの種の質問には「はい」と答えるものなのです。今日の時点では特別軍事作戦を支持すると言い、明日、プーチンがウクライナをロシア連邦の領土の一部として併合すると決定すれば、その決定を支持すると言うでしょう。

ビェリャシン: そんなに恐怖が強いのですか?

ユージン: まちがいなく。しかし、それだけではありません。もし恐怖によって抑えられているのでなければ、圧倒的多数のロシア人は積極的に抗議する用意があるのか、といえば、かならずしもそうではないのです。現実には、人びとはたいていは「こういったことすべてにかかわり合いたくない」のです。

ロシアでは、世論調査は、いわゆる政権への支持をデモンストレーションするためにのみ、行なわれているのです。あたかも国民が大統領に賛成しているかのような幻影を作りだすためです。私たちは現在、このやり方が効果をあげているのを目にしているわけです。もし読者があなたに「ロシア人は戦争を支持しているじゃないですか」と言うのであれば、それは、クレムリンがこの手段をたいへん巧みに利用していることを意味しているのです。数年前であれば、ロシア人は、世論調査を、国家とコミュニケーションをとる方法として受けとめていたかもしれません。しかし、今日では、誰も国家と何らかのコンタクトをとりたいと望んでいません。

ビェリャシン: 政権は、社会に対して、この先どんなふうに「働きかける」のでしょうか?

ユージン: ロシアの文脈では、私たちは「社会」という言葉をまず忘れてみるべきですね。ロシアには社会はありません。そこには、自分の問題で手いっぱいのたくさんの人たちがいるだけです。
公的機関や国営企業で働いている人たちは、ウクライナでのロシアの行動についてどのように語るべきか、きわめて具体的な指示を受けています。自分自身、そして自分の上司や同僚に損にならないようにふるまうためです。ウクライナに親戚がいる人たちは、しばしばそのことに触れないようにしています。周囲にわかると疑いの目で見られるからです。ロシアとウクライナにまたがる多くの家族が、そのために崩壊しました。ロシア側で暮らす家族のメンバーが、ウクライナ側に残っている家族と完全に接触を断つことも珍しくありません。コンタクトをとると危険だからです。

ビェリャシン: 戦争が始まったときには、私たちは、ロシア人は本当のところは何が起こっているのかを知らないに違いないと考えていました。独立したメディアの情報にアクセスする手段もなさそうでしたから。でも、すでに多くの時間が経過し、プロパガンダを流す人たちの語りはますます攻撃的になるばかりです。少しでも行間を読む力があれば、たとえ国営放送のニュースを見ていたとしても、現実は明々白々ではないかと思うのですが。

ユージン: ロシアの人たちは、だいたいすべてわかっていますよ。彼らを愚か者のように考えるべきではありません。しかし、何のために、いかなる影響力も持たないことについて何かを知る必要があるのでしょう?

圧倒的多数のロシア人は、プーチンが何かを決めたのであれば、押しとどめることはできないと考えています。もし彼が地球を粉砕すべきだと考えたとしても、ロシア人は、やれやれそれは困ったことだ、でもそれが運命だ、仕方ない、と考えるのです。
そうなるには、原因があるのです。ここ22年のあいだ、ロシア人は何度もプーチンのやり方を阻止しようとしましたが、一度も成功していません。2011年には、プーチンが大統領の地位に復帰しないように、大規模な異議申し立てをしました。ロシアがクリミアを併合した2014年にも、政権の腐敗を告発したアレクセイ・ナワリヌイが逮捕された2017年にも、政権が国家院の選挙で独立派の候補を認めなかった2019年にも、ナワリヌイが投獄された2021年にも、異議を唱えました。

そのたびに、抗議する人びとは治安警察に殴られ、投獄されました。他方でプーチンは、国外から支持をとりつけ――たとえば新たに天然ガスを輸出する巨額の契約を結んだりして――、その資金で国内の抵抗を締めあげるのです。人びとは繰り返し、身にしみてわかったのです。もしプーチンが何かを欲すれば、それをやり遂げるのだ、ということを。自分たちが何をやろうと、何を危険にさらそうと、いかに自分を犠牲にしようと、そんなことにはお構いなしに、やり遂げてしまうのだ、ということを。

ビェリャシン: つまり、現在私たちが目にしていることについては、西側にも責任があるということですか?

ユージン: 世界が、ロシア人の問題を、彼ら自身に代わって解決することはないでしょう。私たちロシア人が、起こってしまったこと、起こっていることに責任を負っているのです。ウクライナの都市を爆撃しているのは、ロシアです。しかし、プーチンはロシアだけの問題ではなかったということは意識する必要があります。

少なくともプーチンが抗議活動を鎮圧することを後押ししないことはできたはずだ、と私は思います。彼が強権的な統治する余地を金で買うことを許さないことができたはずです。実際には、彼は、西側と取り引きして、西側から容認と沈黙を買い付けたのです。西側は、ロシアの政治エリートやオリガルヒをもろ手を開いて受け入れ、そこから利益を得たのです。プーチンは、エリートが貪欲な人たちであることをよく知っていました。誰かが何かに同意しなければ、さらに金を積んで提案する必要があることもよくわかっていました。

ビェリャシン: ふつうの人たちはそのことを意識していますか?

ユージン: ロシア人は何を考えるべきだと? ロシアで人びとの追跡を可能にする巨大なシステムを構築したのは、ノキア〔フィンランドに本拠地をおく通信インフラ開発企業〕ですよ。政府は、このシステムを使って、体制に反対する人びとを追跡しているのです。別の例を挙げましょうか。ロシア政府は、ナワリヌイを逮捕しました。国内の状況を変える力をもち、この戦争を防ぐことができたかもしれない人物です。その彼が逮捕された後に、ドイツは、エネルギー資源の調達のために、数十億ユーロとも言われる新たな契約をプーチンと結んでいるのです。

クレムリンが、これらの金を、ナワリヌイのような人たちを弾圧するために役立てていることを、人びとは知っています。プーチンは、民主主義的価値のために戦っていると称している人たちとさえ交渉し、西側のエリートを買収できるとすれば、街頭に出て闘うことに何の意味があるでしょうか?

ビェリャシン: おそろしく苛立たしい状況ですね。

ユージン: ロシア人は、多くを知りすぎて、それで政治について意見を持つと、問題を抱えることになりうるということを学んできたのです。彼らにとっては、これは生きていくうえで考慮するべきことなのです。ですから、ロシア人は、ウクライナで何が起こっているかを推測はしますが、この問題についての情報に接しないようにしているのです。なぜならば、何かを変えることができるとは彼らは信じていないからです。すべてを知っているのに無力であるという状態に耐えることは困難です。考えないほうが楽なのです。

ビェリャシン: では、国家によるプロパガンダは?

ユージン: ロシアのプロパガンダが人びとに語っているのは、誰も信じるべきではない、ということです。ロシアのプロパガンダも含めてです! ロシアのプロパガンダは、20年以上にわたって、ロシア人に、誰もが嘘をついている、真実など存在しない、と教えてきました。人間の課題は、より楽に生きることができるような出来事の解釈を選ぶことだ、と。より居心地のよい嘘を選びなさい、と。

プロパガンダを行なう人たちは、ロシア人に対して、自分たちは嘘をついているが、少なくともより心地よい嘘を提供しているのだ、ということをわからせてきました。もちろん、遠方の貧しい地域の人びとは無批判にプロパガンダを信じていますが、圧倒的多数の人たちはむしろ情報を避けようと努めているのです。

ビェリャシン: そのことは、ロシアが置かれている状況についての人びとの認識にどのように影響しているのでしょう?

ユージン: 一部の人びとは、ロシアに対する制裁が導入されているのは、西側がロシアを憎んでいて、ロシアを貶めようとしているためだ、という説明を選択しています。プーチンは、このような論法で、西側による被害者だと感じることには正当な理由があるというロシア人の思いを強化しているのです。制裁によって社会を教え導こうとしても、効果はないでしょう。なぜならば、社会に対して、祖国とソーセージとどちらが好きか、という問いへと導くことになるからです。多くの人がどう答えるかはあきらかです。

西側がこれから何をするかは、重要ではありません。何をしても、また侮辱されたと受けとられるでしょうから。

ビェリャシン: 制裁はまちがいだったとお考えなのですか?

ユージン: いいえ、そうは考えていません。ただ、制裁に期待することがまちがっていたのです。制裁を科しても、ロシア人が街頭に出てプーチンを打倒するということにはなりません。しかし、もし制裁が今後も続けて導入され一貫して執行されていくならば、プーチンの戦争マシーンの動きを確実に制約することができるでしょう。

しかし、大企業は建前上はロシアから撤退しましたが、彼らの店舗の店先には、速やかに営業を再開することを約束するポスターが貼られています。ロシアで勤務するグローバル企業のマネージャーたちは、できるだけ早期に再開するための交渉を続けています。制裁は一時的なものに過ぎないという感覚を、すべての人が持っています。
自分の財布のなかにプーチンの政策の影響を感じるようになってはじめて、ロシア人は何らかの不満を表明する気持ちになるでしょう。

ビェリャシン: ロシア社会についてのあなたの描写をうかがっていると、「教え込まれた無力さ」という表現が思い浮かびます。何に対しても影響力はないし、行動しても無意味だ、なぜならば、どんなことをやろうとしても失敗に終わるのだから、という感覚ですね。

ユージン: 「教え込まれた無力さ」は、ロシアの社会の全体を覆う特徴であり、おびただしい数の人たちを無力な存在にしています。それゆえにこそ、いかなる理由があろうとも戦争に反対するだけでなく、戦争を止めてウクライナを助けようとして積極的に行動する人びとの存在に気がつくことが重要です。そのような人びとはけっして少数ではありません。彼らの多くが、そのように行動するがゆえに国を去らなければならなくなっているとしても、です。
公論の領域、つまり、音楽家、科学者、スポーツ選手、企業経営者、文化人の発言を観察していて、私は、この戦争に公然と反対している人びとのほうが、戦争の支持者よりも人数としては多いと見ています。

ビェリャシン: 戦争が始まってまもなく、ロシア人が街頭に出ていた頃、多くのポーランド人が、これではとるに足りない、ロシアの人口を考えると抗議の規模が小さ過ぎる、と言うのを耳にしました。抗議行動が減ってくると、まったく注目されなくなりました。

ユージン: ポーランド人なら、どうして1939年にドイツでポーランドへの侵攻に反対する大衆的な抗議行動がなかったのか、という問いは馬鹿げていることがわかると思います。ロシア人はどうして街頭に出て抗議しないのだ、という問いは、同じように馬鹿げているのです。そう、たしかにロシアと第三帝国は違います。でも、両者を結びつけているものがあります。いずれにおいてもファシスト的な制度が導入されているということです。今、ロシア人から期待しうることは、1939年にドイツ人から期待しえたこととまさしく同じ程度のものなのです。

ビェリャシン: 社会でどのような空気が支配しているのですか?

ユージン: 自分たちに何ができるんだと私に訊いてくる人がたくさんいます。公共の場で自殺したら、それどころか、赤の広場で焼身自殺したら、何か変わるのか、と質問するのです。やる価値があるか、それが助けになると期待できるか、と。あるいは、真実を語って戦争に反対して投獄されれば、プーチンを押しとどめるために少しでもチャンスになるのか、と。希望を失い、無力感にとらわれて、この人たちは何ができるかわからなくなっているのです。

抗議することにどういう意味があるのかという問いを、私はもう何年も前から受けています。大規模なデモが国内で起こるたびに、ふだんは政治に関心を持っていない人たちが私に質問するのです。抗議行動に参加して、何かを変えることができるということがありうるのか、と。そして、後になって、何ひとつ自分たちには変えられないのだと納得するのです。

ビェリャシン: 人びとがお互いに密告し始めたことを、どう説明しますか?

ユージン: これはたいへん危険な現象です。ロシアの体制は、厳しい権威主義からファシストの体制に変化したのです。現在では、この体制は、人びとから、従来とは異なるものを要求し、より多くのことを期待しています。このファシズムは恐怖に支えられています。

人びとはファシスト的な運動に参加し始めています。怖いからです。とりわけ以前は政治に関心のなかった人たちの場合がそうです。殴っている側にいま参加するか、さもなければ、殴られる側に身をおくか、そのどちらかしかないと彼らは信じているのです。

ロシアで最も重要な大学の1つで、2月に、治安機関の人間が指導的な立場に就きました。「ウクライナでの特別軍事作戦」をめぐる学生との集会で、彼は、もし教員が状況を政権と異なる仕方で評価した場合には、そのことを自分に告げてもらってかまわない、と言いました。女子学生の1人が立ち上がって、そういう教師がいます、誰がそうかをあきらかにすることもできます、と意思表示をしました。これにはさすがに治安機関から来たこの指導者もぞっとしたそうです。

ビェリャシン: なぜです?

ユージン: なぜならば、もしこの女子学生が教師の名前を挙げれば、自分が監督するべき場所でまずいことが起こっていることを全員が知ることになると彼は理解していたからです。結果的に全員が怖れ始めます。この大学では、一部の学生が教員を密告しています。さらに一部の学生は、密告が行なわれているので注意するように、とひそかに教員たちに知らせています。自分の仲間に密告者がいることを知っているからです。

人びとは恐怖心から密告を始めています。そうしないと誰かが自分たちを攻撃するのではないかと怖れているのです。こうして社会はファシズム化していきます。

ビェリャシン: 私はロシアの人たちと会話し、報告もたくさん読んできました。私が会話した人たちの多くは、ロシアのウクライナとの戦争は狂気の沙汰だ、こんなに近い民族なのに、と強調します。他方で、「あいつらは懲らしめてやるべきなんだ」と言う人たちもいます。一部のロシア人にみられるウクライナ人への侮蔑は、どこから来るのでしょう?

ユージン: それはデリケートな問題です。ロシアは崩壊しつつある帝国です。帝国の周辺に位置する他の諸民族や、かつては帝国の一部だった諸国民に対して、一部のロシア人は優越意識を持っているのです。ロシア・ウクライナ関係に植民地的な過去が影を落としていることは、あきらかです。しかし、私はこの現象を一般化するつもりはありません。独立したウクライナが存在する時代に育った若い世代は、総じてこうした帝国主義的な感覚はもっていませんから。

ビェリャシン: もちろんプーチンの考えは違いますね。

ユージン: プーチンはなにより、自分が致命的な危険のなかにいると考えています。彼がウクライナとの戦争を始めたのは、もしそうしなければ、自分を待ちうけているのは惨めな最期だと考えていたからです。ロシアの人びとの不満が高まっていって、ウクライナと西側に支援されれば、自分は没落すると考えているのです。

東ヨーロッパ全体が、彼にとっては危険地帯です。この地域に対して、彼は自分の権利を主張しています。彼が、ワルシャワ条約機構の時代の勢力圏の境界線まで押し返したがっていることがわかりますから。

ビェリャシン: ウクライナとの戦争を始める前に、プーチンは、ウクライナについて、いくつかの文章を書きました。そのなかで、彼は、ウクライナには国家を持つ資格はないと述べています。さらに、ポーランドについて述べた文章もあります。

ユージン: ロシアの政権の代表者たちがポーランドについて最近述べていることを、私はきわめて深刻に受けとめています。はじめてクレムリンからポーランドにとって重大な脅威となる見方が示されたと私が認識したのは、2020年のことでした。そのとき、プーチンは第二次世界大戦の勃発の原因についての分析を公表しました。この分析においては、ドイツについての記述はごく少なくて、その代わりに、ポーランドについてきわめて多くのことが書かれていたのです。プーチンは、文字どおり、ポーランドは悪であり、ポーランドが戦争の勃発に導いたのだと書いています。ウクライナについての文章でも、ポーランドについて脅威であると書いています。ウクライナへのプーチンの進軍がある程度成功すれば、次の目標はポーランドになることを私は疑いません。

ビェリャシン: 現在のようなかたちのロシアは、この戦争によって終わりを迎えるのでしょうか? 独立系の専門家の多くがそのような見方をしているのですが。

ユージン: この戦争が没落へと導くさらなるエピソードであることは疑いありません。ロシアの国境は最終的には変更され、おそらく国土が縮小するであろうことをすべてが示しています。

しかし、たいへん奇妙なことが起こっていることに注意する必要があります。ロシア軍は、ずいぶんいろいろな旗を掲げてウクライナに侵攻しています。ロシアの国旗だけでなく、ソ連の旗とか、それこそ鎌と槌のシンボルを掲げたりしています。しかし同時に、プーチンはレーニンを憎んでいて、脱共産主義化について語ったりしているのです。どういう国に私たちは暮らしているのか、答えるのがむずかしいほどです。

ヴァーツラフ・ハヴェルは、ロシアの最大の問題は、どこから始まってどこで終わるのかを知らないことだ、と言いました。まさに今、私たちはこの現象と向き合っているのです。
ロシア政府はある日、ハリコフ〔ハルキウ〕を占領した、この町は永遠にロシアのものだ、と言いました。次の日にはウクライナ軍がこの都市をとり戻しました。人びとはすでに途惑っています。ロシアはどこで終わるのか、そもそもこの国は何なのか、わからなくなっているのです。ウクライナ人が何のために戦っているかあきらかである分、ロシア人は何のために戦っているのかまったく理解できないのです。

ビェリャシン: ロシアは真の連邦になるでしょうか?

ユージン: そうなってほしいと本当に思います。それが最も適切な解決でしょう。ロシアで私たちは巨大な中央集権的な権力と向き合っています。それに加えて、モスクワのエリートに対する憎しみもあるのです。ここから抜け出すことはできるでしょうか? すべては社会にかかっています。社会が自らを育んで、政治的に行動する力を身につけ、プーチンは全能ではないと理解できるかどうかにかかっているのです。それができれば、ロシアは連邦的な共和国となり、あらゆる帝国主義的な衝動を忘れることができるでしょう。

ビェリャシン: ロシア人に求めうるのは、第三帝国のドイツ人に求めうるのと同じ程度のことだ、とあなたは言いましたね。でも、時代が違いますし、知ることはより容易になっています。

ユージン: ドイツでも人びとは知っていましたよ。そして、ロシアでも彼らは知っているのです。問題はもっぱら、どうやってそのことを自分自身に対して認めることができるのか、という点にあります。で、どうするんだ? この知識をもって何をするんだ? それを知ったうえでどうやって生きていくんだ? ということです。
最初のうち、戦争が始まってすぐの時期、ドイツ人たちは、そのような知識と向き合う準備ができていませんでした。今日のロシア人も同じです。何が起こっているかを意識したり、自分の無力さを感じたりして、かえって攻撃的になっています。人びとは知っているのです。

街頭でブチャやその他のウクライナの町の映像を見せられると、怒ったような反応をするのは、このためです。もし彼らが何も知らなければ、好奇心をかき立てられて、もっと知ろうとするでしょう。しかし、実際にはすべてがあきらかなので、彼らは攻撃的になるのです。なぜならば、そのような知識は彼らにとって耐えがたいものであり、壊れやすい彼らの内面の世界を傷つけるからです。自分自身と自分に近しい人たちのことを気づかうことこそ自分にできることのすべてだと信じて、こんなに長い時間をかけて作り上げて閉じこもってきた安全な繭を損なうものだからです。
人びとは、すべてができる限り早く終わることを望んでいます。そして、これは恐ろしい言い方に聞えるでしょうが、人びとはプーチンが勝利することを望んでいます。なぜならば、ロシア人は、この政権には負ける用意がないことを知っているからです。失敗すれば、全世界にとって――そのなかに彼らの世界も含まれています――劇的な結果となりうることを知っているからです。

「理不尽なプーチンの戦争に対して、ロシア国内にいるロシア人はなぜ反対の声をあげないのか」という日本でもしばしば聞かれる疑問に対して、「ロシア政府が思想統制と情報操作を強化しているために、ロシア国民の多くはウクライナで実際に何が起こっているかを知らないからだ」という説明がなされる。
しかし、このインタビューで語られるロシアの社会学者の分析を読むと、現実はより屈折したものであるのかもしれない。多くのロシア国民はウクライナ戦争の実態を知っているがゆえに、かえってその知識と向き合うことを拒否している、というのだ。

ロシアの世論調査の実態も、このインタビューから教えられることの1つである。ユージンによれば、「世論調査の回答率はたった15%ほどに過ぎない」。戦争に反対する人は、むしろ世論調査に答えないことを選択するのだとも言う。

ユージンは、ロシアの権威主義的体制は現状ではファシズム的体制に移行している、ととらえている。この場合に「ファシズム」という概念が適切かどうかは議論の余地があるかもしれないが、社会のすみずみまで監視と動員の力が働く体制が作られつつあることは間違いなさそうである。大学のトップに治安機関の人間が座り、政府の方針に従わない教員を密告するように学生に呼びかける――そしてたちまち学生がその呼びかけに答えて教員を密告する――という話は、読んでいて背筋が冷たくなる。
ロシア政府が国民を監視するシステムが「西側」の企業によって構築され、「西側」から流れ込んだ巨額の資金によって維持されてきたという指摘も、痛烈である。

たしかにこのインタビューはロシアの抱える問題について語っているのだが、読みながら、これは自分も身近に知っていることではないか、と感じて身につまされる箇所がある。政治的な問題について、声をあげても変わらない、という経験が積み重なっていった結果として「教え込まれた無力さ」が生まれる、というあたりなど。

【SatK】