アダム・ミフニク「ウクライナでの戦争は、ロシア国民とウクライナ国民との戦争ではない。この戦争は、民主主義的世界で生きようと望むわれわれ全員にとっての新たな挑戦である。」

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『ガゼタ・ヴィボルチャ』2023年2月23日
https://wyborcza.pl/7,82983,29482389,adam-michnik-wojna-w-ukrainie-to-nie-jest-wojna-narodu.html

今日、われわれが1周年を迎えているこの戦争は、疑いもなく、われわれの時代の最も重要な戦争である。なぜならば、これは、帝国主義的・排外主義的・全体主義的なプロジェクトと、民主主義的・ヨーロッパ的・複数主義的なプロジェクトとがたたかう戦争だからだ。

これは、ロシア国民とウクライナ国民との戦争ではない。これは、プーチンの帝国的・殺人的・犯罪的権威主義とウクライナの民主主義との戦争である。ウクライナの民主主義の根本的な目標はヨーロッパ連合の民主主義的な構造のなかに加わることであり、その意味で、これは、われわれの世界とわれわれに敵対する世界との戦争である。

だが、忘れてはならないのは、プーチンや小型のプーチンたち、あのプーチンの小人のような連中は、あらゆる国に、ある程度までは、すべての社会集団のなかに存在するということだ。この戦争の本質的な姿、その本質的な意味が疑問視されるところ、そのような場所のいたるところに、われわれは小プーチン的なものを見いだす。

われわれポーランド人は、このやり口をよく知っている。バルト諸国、ポーランド、チェコ、スロヴァキア、ハンガリーに対する、大ロシア主義的な帝国主義、ソヴィエト的帝国主義、プーチンの偽りの帝国主義のこのやり方を。

これらのすべての帝国的な侵略を、われわれは記憶している。それは、いつも最初に大きな嘘をつくことから始まった。これは攻撃的な侵略ではなく介入にすぎない、それは社会的・民族的・人間的な権利を護るために行なうのだ、と。1939年にヒトラーの軍隊がポーランドに侵攻したときもそうだった。それは、ドイツ系少数者の権利を護るためと称されたのだ。スターリンの軍隊が侵攻したときもそうだった。それは、ベラルーシやウクライナの住民を護るためと称されたのだ。

事実は、この戦争が、民主主義的世界で生きようと望むわれわれ全員にとっての新たな挑戦である、ということだ。
これは、どちらに立つかの挑戦であり、そこには中立の場所はすでにない。両方に均等に足を置くような場所はないし、この挑戦を過少に扱うことはもちろん論外である。これは、第二次世界大戦に匹敵する挑戦である。そして、この挑戦において、ポーランドが正しい側に立っていること、自らのアイデンティティを守ろうとするウクライナの側に立っていることを、私は幸いであると思う。

ポーランドとウクライナの関係の歴史には、いろいろな局面があった。この関係はしばしば悪いものであったし、悲劇的なものになったこともしばしばあった。そして、今日、政治的な立場を問わず、ポーランドがウクライナに友愛の手を差しのべていることは、ポーランドの歴史の暗い側面に対する勝利であり、大きな成功である。この関係が続くことを私は願っている。

これは、他の国民に敵対するための友愛ではない。これは、独裁と、全体主義と、虚偽と、残虐行為と、犯罪に反対するための友愛である。集団虐殺の犯罪に反対するための、ウクライナ国民を殺害する犯罪に反対するための、友愛である。

殺されたすべての人びとは、ポーランド人の側からの、賛嘆と感謝の言葉に値する。ウクライナの地で、ポーランドの自由の運命が決められている。われわれの心は、ウクライナの人びとの側にある。ウクライナ人が彼らの自由のためにたたかう戦争は、われわれの自由のための戦争でもあるのだ。

ポーランドの日刊紙『ガゼタ・ヴィボルチャ』の編集主幹アダム・ミフニクが、ウクライナでの戦争1周年にあたる2月23日に発表したメッセージです。

1年前、同じ日刊紙『ガゼタ・ヴィボルチャ』に発表された、ポーランドの知識人・文化人による「ウクライナとの連帯とロシアの侵攻阻止を求めるアピール」の翻訳と解説を「有志の会」のホームページに掲載しました。
翻訳:https://www.kyotounivfreedom.com/solidarnosc_z_ukraina/apel/
解説:https://www.kyotounivfreedom.com/solidarnosc_z_ukraina/komentarz/
昨年2月19日付で公表されたこのアピールの中心となったのが、アダム・ミフニクでした。
ロシア軍の侵攻が始まった2月24日に発表された彼の論説「今日、はっきりと、声高く、言わなければならない。われわれ全員がウクライナ人だ」も、翻訳を「生きのびるために ウクライナ・タイムライン」に掲載しました。
https://www.kyotounivfreedom.com/ukraine_timeline/editorial/20220224/

1年をへて、「この戦争はヨーロッパの自由と民主主義を守るための戦いである」という、彼の見かたが変わっていないことが確認できます。ポーランドとウクライナの関係史に不幸な時代があったことを認めたうえで、ポーランド人がウクライナに友愛の手を差しのべる現状を肯定的に評価する点も変わりません。

「民主主義vs. 独裁」「自由vs. 全体主義」というとらえ方に、欧米中心主義的なイデオロギー性を感じる読者もいるかもしれません。しかし、ポーランドの近現代史をふまえると、これもまたリアルな歴史と現状の認識の表現なのです。むしろ、ロシアとの関係で多くの困難に直面してきた国を代表する日刊紙が「この戦争はロシア国民とウクライナ国民との戦争ではない」というメッセージをはっきりと掲げていることの意味を、私たちはしっかりと受けとめるべきでしょう。

【SatK】